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【日食なつこ】アルバム「逆鱗マニア」レビュー

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ピアノ弾き語りスタイルのアーティストは数多くいるが、彼女の世界観の美しさやみずみずしさは唯一無二だ。音楽プロデューサーの蔦谷好位置氏が「関ジャム」出演時にその才能を絶賛し、一気にその存在を知られるようになった。

音楽プロデューサー蔦谷氏絶賛! 関ジャムで紹介され注目集める「日食なつこ」とは? | ロケットニュース24

その時に紹介されたのが「水流のロック」である。

 

今回紹介するアルバム「逆鱗マニア」は2017年1月リリースの4thミニアルバム。

軽快なピアノと日食なつこの歌声に、その他の楽器がそっと寄り添うような控えめさで華を添えている。鋭くて繊細な感性から生み出される歌詞とメロディが心のすき間にグサグサ刺さる、そんな作品だ。

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ログマロープ

アルバムリード曲。イントロのつかみの良さからAメロ~サビに至るまでのテンポ感が絶妙。ピアノ・ドラム・ギター・ベースのみというのがにわかに信じがたい華やかなサウンドに驚かされる。

1番はA→A’→B→A”→サビ というもったいぶった構成なのだがその焦らされ方も嫌な感じがない。サビまで絶対聴いてやるぞ…!と思わせる何かがある。その後の2番ではすんなりとサビへ展開するので曲全体で飽きさせないし、途中でスキップして次の曲を聴こうって気にならないくらい頭から終わりまでの勢いがすごい。

逆境の真っ只中でも楽しむくらいの気持ちで立ち向かうのって、言うのは簡単でも実際には難しい。でも歌詞にもあるけど、「腹を決めろ まさに今」って背中を押してくれるし、打たれるたびに熱くなる鋼の心臓を持って何事にも挑みたい。そう思わせてくれる。

 

神様お願い抑えきれない衝動がいつまでも抑えきれないままでありますように

長いタイトルからもうインパクトがでかくてどんな曲なんだ…?と身構えていたんだけど、切なさを手のひらに零れ落ちそうなくらいすくってしまったような、そんなミディアムソング。

これをラブソングなのか、友情を歌った曲なのか、もっとファンタジックな次元のストーリーなのか、どうとらえるか聴き手によって変わってきそうな余白があるのもおもしろい。

 

大停電

「大停電の夜に何もかもがバレてしまったんだ」「大停電の夜にこのままじゃダメだと知ったんだ」このフレーズだけでもなかなかにハッとさせられるが、全編通して温室育ちである自分たちへの強烈なアンチテーゼが並んでるのしんどいな…。

10代をゆとり教育ど真ん中で生きてきて道を外さないようにおとなしく過ごしてきた自分が、いざピンチな場面に遭遇したら何もできずに感じた無力さ。それを「大停電」というテーマでここまでありありと描かれるとは。

解決策が特に示されることもなく、無力さを感じた様子を淡々に表現しているというのもポイントだろう。普通は無力さを感じた自分のもとに恋人なりヒーローなりの救世主が現れるようなものだが、そんなベタな展開がないのが清々しくて気持ちいい。

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It seems like a frog

おどろおどろしい出だしとかわいらしさのあるサビのギャップがたまらないラブソング。機嫌の悪さとベタ惚れの高低差をカエルに例えて描かれる6月の夜の恋、まるで絵本を読んでいるような感覚になった。

ファンタジーと現実がグラデーションになったような物語の中で、2番A’になると急に醒めたように二人の出会いの必然性を語りだすから一気に現実に引き戻される。そしてまた物語に戻っていくからとても不思議な感覚を抱いたまま曲の残りを聴くことになるわけ。見事に日食なつこワールドに吸い込まれたのを実感した曲だった。

 

グローネンダール

グローネンダールとは何ぞ?と思い、ウィキペディア先生に聞いてみたらシェパードの名を冠する雄々しい犬だった。

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ベルジアン・シェパード・ドッグ・グローネンダール – Wikipedia

不安がるグローネンダールをなだめるわけでもなく、朝まで吠えろと見守る歌。歌詞とメロディがとにかく優しい。考え事が頭の中をぐるぐる回って眠れない夜に聴きたい一曲である。

 

Dig

ピアノ×ドラム×ブラスの華やかなサウンドで、最高に尖ったメッセージを歌うのかっこよすぎてシビレる。歌詞の全てがマーカー引いて心に留めておきたい言葉だらけだし、現状に甘んじてぬるま湯に浸かることを良しとしない野心を忘れずにいたいなって思わせてくれる。

曲調と正反対の歌詞を乗せる手法は割とどこでも使われるけど、最近個人的にそういう曲に当たっていなかった。なので「Dig」で明るい曲調とギラギラな歌詞という対比を新鮮に聴くことができて嬉しい。

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サイクル

踏切のサイレンのような和音から始まる、それはそれは暗くどんよりとした曲。この曲の恐ろしいところはそれが自殺をしそうなサラリーマンを暗に描いているのでは?と思わせる歌詞なんだよな…。

仕事と家の往復という毎日のサイクルに疲れ果てて、栄養剤で延命してるようなサイクルから逃れられない救いの無さ。私が前職の病んでる時にこの曲に出会ったら確実に聴きながら泣いてる。

 

あのデパート

アルバムのラストは、閉店してしまう地元のデパートでの子どもの頃の思い出をしっとりと歌い上げる。小学生が書いた作文のようにひらがなが多めの歌詞表記なのも、懐かしさと寂しさをより一層引き立てている。

地方都市で育った人なら遭遇しがちな地元のデパートの閉店。閉店していなくても、幼いころにデパートに出かけたことがちょっと特別な思い出として記憶に残っている人も多いのではないだろうか。

好きな曲や、聴いていて感情がこみ上げてくる曲はたくさんあるけれど、この曲ほど涙が溢れてくるほど心を揺さぶられる曲はそう多くない。自分が見た光景や経験したことに重なって、あまりにも鮮明に情景が浮かび上がってしまう。

ピアノ一本で「あのデパート」への想いを噛みしめるように歌っているのがこれまた涙腺崩壊要素すぎてもう…だめ。

あなたの幼い思い出の中にある「あのデパート」を思い浮かべながら聴いてほしい。

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